「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第69話

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自キャラ別行動編(仮)
<困惑と指示>


 「シャイナ様、大変です! 魔物が、魔物が出ました」

 「えっ、魔物?」

 嫌な予感はしたんだよね。
 でも、当たってほしくない予感ほど的中するのは世の習い。

 「はい。大ミミズです。身の丈が人より大きいミミズの魔物が出たのです」

 はい、間違いなくシミズくんです。
 どうしよう? 撃退・・・ではダメだよね。

 私達はよく知っているけど、エントの村の人たちからすると初めて見るモンスターだ。
 それだけに当然生態なんて解っていないし、一度追い払ったとしても、もしかするとすぐに戻ってきたり近くに巣作りをして居付いたりするかもしれないと考えるよね。

 それにこの魔物が通常は群れで狩場を移動するタイプで、その内の1匹が安全確認のために先行してもし外敵がいたら今度は集団で襲ってくるなんて習性を持っていたら大変だ。
 これほどの魔物、エントの村の人たちは、自分たちだけでは討伐どころか撃退するのも多分無理だと考えると思うから。

 撃退して見せれば私たちがいるなら大丈夫と考えるかもしれないけど、ここにはボウドアのように私たちの館はない。
 この状況を考えると追っ払うだけじゃ、村人たちの心の中に大きな不安が残ってしまうなんて事になるかもしれないのよね。

 ああどうしよう、私だけでは判断がつかないよ。
 そう考えた私はとりあえず相談できる相手を求めてあいしゃを呼んだ。

 「あいしゃ、指示を仰がなければいけない事態になったから通信できる魔道具を持ってこちらに来て」

 「うん、わかった!」

 「それからミシェル、魔物の近くにいない村人たちを安全な場所まで避難させて。それからユカリ」

 あいしゃとミシェルに指示を出した後、ユカリの方を向いて一泊置いてから言い含めるように指示を出す。

 「ユカリ、”解っていると思うけど"あそこにいる村人たちに危険がないよう魔物を魔法で探知して現在位置を確認して。ミシェル、村人たちの避難が終わったらユカリに位置を聞いて、襲われない位置の人たちを魔物を刺激しないようにゆっくりと、順番に避難させて頂戴。彼らがいては魔物をどうにかする事は出来ないから」

 「「はい」」

 ユカリは城の中から出ることのない上に、防衛兼メイドのNPCだから当然探知系の魔法なんて当然持っていない。
 でも、そんな事は承知して言っているという事が伝わるように私は"解っていると思うけど"と念を押すように指示を出したんだけど、ちゃんと伝わったようでよかった。

 ここで、「すみません、私は探知系の魔法を習得していません・・・」なんて言われたら困った事になっていたものね。

 さて、これで村人たちは近くにいなくなったことだし、あいしゃと対応策を考える事にしよう。

 「あいしゃ、どうしよう。撃退だけでいいのならシミズくんと打ち合わせをして演技をしてもらえばいいんだけど」

 「う〜ん、これがボウドアの村なら館もあるしぃ、再出現した時はすぐに何とかできると言って安心させられるけどぉ、わたしたちとのれんらく方法がないエントの村の人たちはそれだけだと不安だろうしねぇ」

 やはりあいしゃも私と同じ結論に達したみたいね。でも、

 「でも私、シミズくんを殺すなんてできないよ。そりゃあ、アルフィンに頼めば生き返らせてくれるだろうけど仲間だもん。手にかけるなんて出来る訳がない」

 NPCと違って課金モンスターであるシミズくんはNPCのようにユグドラシル金貨で生き返るのではなく、リザレクションなどの復活魔法で生き返らせる事になる。
 そしてその手段があるのだから人によっては殺してしまってもいいのではないかという人もいるだろうけど、私は嫌だった。

 だって種族は違うとは言え同じ城に住む仲間なんだから、こんな状況であっても自らの手で殺すなんてできっこないよ。

 「うん、わたしもシミズくんに死んでほしくないよぉ。いくら生き返らせる事ができると言ってもぉ、やっぱり死ぬ時は死ぬほど痛いからねぇ。そんな思いはしてほしくないよぉ」

 よかった、あいしゃも同じ意見みたいね。
 でもどうしよう。
 ああ、やっぱり私は頭を使うことに関しては役立たずだ。
 何もいい考えが浮かばない。

 「撃退ではダメ。でも討伐もしたくない。だったらどうしたらいいんだろう? あいしゃ、なにかいい考え、無い?」

 どうしようもなくなった私はあいしゃに助けを求めたんだけど、

 「・・・ごめん、わたしもぉ何も思いつかない」

 あいしゃも、この状況では何も思いつかなかったらしい。
 結局二人そろって途方にくれてしまった。

 そんな状況の中、周りの村人の避難が終わってミシェルがユカリの方に移動していくのが見えた。
 多分魔物を刺激しないようにと言う私の言葉に従っているように見せて、ゆっくり歩く事によって私たちの考える時間を作ってくれているんだと思う。

 「シャイナのしじどおり・・・あっ! そうだぁ、そうだよぉ。さっきシャイナがわたしに言ったじゃない」

 「え? なんの事?」

 そんなミシェルを見ていてあいしゃが何かに気付いたみたい。
 でも私、何か言ったっけ?

 「わたしたちが思いつかないなら、しじをあおげばいいんだよ」

 「そうか! マスターに助けを求めればいいんだ」

 マスターなら自分たちの能力しか把握していない私たちと違って全員の能力を把握しているし、私とあいしゃ、ミシェルにユカリの能力から考えて何かいい案を出してくれるに違いない。

 流石あいしゃ、私と違ってちゃんと解決策を考え付いたわね。
 私だけだったらきっとマスターに助けを求める事も考え付かずにおろおろとしているだけだったもの。

 「じゃあ、早速マスターに連絡するわね」

 「うん、おねがいね」

 私はマスターとの連絡用に預かっていた<メッセージ/伝言>が使えるマジックアイテムをアイテムボックスから取り出し、マスターに呼びかけた。

 「マスター、聞こえますか? シャイナです」

 「えっ? シャイナ? いきなりどういたしましたの。それに今のわたくしはマスターではないですよ」

 いきなりのメッセージに何があったのかと、驚いたような”アルフィン”の声が私の頭に響いてきた。

 「え、あっ!?」

 「どういたしましたの? マスターが今あやめの体を御使いになられているのはあなたも知っているでしょう」

 やはりかなりテンパッっていたみたいね。
 マスターにメッセージを送ったつもりで、いつもマスターが体を使っているアルフィンにつないでしまったもの。

 「どうしたのぉ。シャイナぁ、もしかしてマスターの方も何か問題があったのぉ?」

 私の驚いた顔に、あいしゃが慌てて質問をしてきた。

 「ごめん、マスターにメッセージを送るつもりで、ついアルフィンに送っちゃった」

 「ああ、なるほどねぇ」

 私の言葉にあきれたような顔を"作って"返事をするあいしゃ。
 でも私は見逃さなかったよ、私が間違ってアルフィンに送ったと言った時に一瞬、「ああ、そう言えば」って顔をしたのを。

 「えっと、シャイナ。マスターに連絡があるのならわたくしとの通信を切って、早くメッセージを送りなおした方がいいのではないかしら?」

 「ああ、そうだね。ごめんアルフィン、時間を取らせたわね」

 「いえ、いいわよ。それではマスターによろしく。ごきげんよう」

 アルフィンに指摘をされ、挨拶を交わした後メッセージの魔法を解除して、今度こそちゃんとあやめに対して<メッセージ/伝言>のマジックアイテムを使用する。
 
 「マスター、聞こえますか? シャイナです」

 「シャイナ? どうしたの、いきなりメッセージを送って来るなんて。農業指導で何か解らない事でもあった?」

 今度こそいつものマスターの口調で話す、あやめの声が私の頭の中に響いてきた。

 「マスター助けてください!」

 「えっ? どうしたのよ。聞いてあげるからちゃんと説明しなさい」

 私の泣きつくような声を聞いて、マスターは慌てて聞く体勢を作ってくれた。

 そこで私はシミズくんが村人に見つかった事。
 村人たちが不安がるから撃退で済ますわけにはいかないであろうと言う事。
 そしていかに仕方がないとは言え、私がシミズくんを殺したくないという事を話した。

 それを聞いて少し考えるかのようにマスターは黙り込んでしまう。

 どうしよう、マスターでもいい考えが浮かばなかったら。
 その時はやっぱりシミズくんを私が殺さなければいけないのだろうか?

 もし、マスターがそう御指示を出されたのなら私は従うしかない。
 そしてきっとシミズくんも喜んでその命を差し出すだろうと思う。
 だって、私たちはそう作られているのだから。

 でもそんな御指示を出させるわけには行かない。

 「マスター・・・」

 私は覚悟を決め、マスターに話しかける。
 きっとマスターもそんな判断はしたくないと思うもの。
 だって、マスターは常に私たちの事を大切に思ってくださっているとても優しい御方だもの。

 だからこそ、その決断は私がした方がいいだろうと考え、こちらから提案をするつもりで声をかけたのだけど、

 「そうねぇ、ねぇシャイナ、あいしゃにちょっと聞いてくれない?」

 物凄く軽い感じでマスターが私に返信をしてきた。

 「えっ? あっはい、あいしゃに何を聞けばいいのですか?」

 そんな深刻さなどどこにも無い声に私は慌てて聞き返した。

 「あいしゃのゴーレムって、ミミズ型のものも作れるかどうかよ」

 「解りました。ねぇあいしゃ、マスターからの御質問なんだけど、ミミズ型のゴーレムって作れる?」

 「えっ? ああ、人型じゃなくてもデータークリスタルを使えばできないことはないよぉ。でもぉ、この世界ではデータークリスタルは手に入らないから、マスターの許可無く使うことはできないよぉ」

 確か前に色々と調べた結果、この転移した世界ではデータークリスタルを手に入れる事はできないだろうって結論に達したのよね。
 それを踏まえて、かなりの数を所有しているとは言え数に限りがあるのだから、保管してある物を使用する際は予めマスターに相談するようにと決めたんだっけ。

 「あれ? でも魔法でゴーレムを作るのにデータークリスタルはいらないんじゃなかったっけ?」

 「人型に近いものならね。でもぉまったく違う形のばあいはぁ、その形のデーターを入れるためにデータークリスタルがいるんだよぉ」

 なるほど、確かにそれなら必要になるかも。
 でもとにかく作れるようだからマスターにそう返事をする。

 「マスター、作る事は出来るようです。でも、その場合はデータークリスタルが必要となるので使用の許可を頂きたいのですが」

 「ああ、いいわよ。この場合はどうしても必要なんだし」

 あいしゃの言葉をマスターはあっさりと飲んでくれた。

 「ではミミズ型のゴーレムを作って、それをシミズくんの変わりに私が倒せばいいんですね?」

 「あっ、そのままじゃダメよ」

 ここまでの流れで、ミミズ型のゴーレムを作ってそれを倒す所を村人たちに見せる事のよって安心させるのだと思い込んでいた私は、このマスターの言葉に驚いてしまった。

 「えぇ、違うんですか!? では、そのミミズ型のゴーレムはどのように使うのですか?」

 「ああ、シミズくんの変わりにミミズ型ゴーレムを倒して見せるというのは間違っていないわよ。でも、それだけではダメだというだけ」

 ???
 どういう事? ミミズ型ゴーレムは倒すけど、そのままじゃダメって。

 「ねぇシャイナ、シミズくんが見つかったってことは、その姿を見られたということよね」

 「あっはい、シミズくんの姿は村人に見られています」

 ミミズ型の魔物が出たと言っていたから、間違いなく見られている。

 「なら、色も解っているでしょ。ピンク色のシミズくんを見た後に、その代わりとしてゴーレムを作って討伐をしたと思わせるには当然同じくピンク色のゴーレムを、そうねぇ、作るとしたら新鮮なお肉で作ったフレッシュゴーレムかな? それを作る必要があるけど、そんな物を作れるだけの素材がそこにあるの?」

 小さなミミズならともかく、シミズくんくらいの大きさのゴーレムを作るとしたからかなりの量の肉が必要になると思う。
 そしてそんな肉がここにあるわけが無い。

 「無理です。作れません」

 「そうでしょ。だからまずあいしゃが作ったゴーレムをシミズくんだと村人に錯覚させないといけないのよ」
 
 確かにその通りだ。
 今あいしゃが作れるゴーレムは周りの土から作るストーンゴーレムか、常にゴーレム作成用にアイテムボックスに入っているクリスタルや魔物の骨、それと各種希少金属を使ったゴーレムくらいだろう。

 この場合、破壊する為に作るのだからただで作れるストーンゴーレムを作る事になるだろうから外見があまりに違うこの二体を同じ個体と思わせるためにはそれ相応の事をしなければいけないと思う。

 「どうすればいいのですか?」

 こんな事を言い出したのだから、きっとマスターはその方法も頭に浮かんでいるんだろうと思う。
 だから早速聞いてみる事にした。

 「ねぇシャイナ、今シミズくんは畑地帯の真ん中辺りにいるの?」

 「いえ、その辺りでは村人たちが大勢作業をしていたので、比較的人がいなかった荒野に近い位置の畑にいます」

 元々が眷属を村人たちがいない所でばら撒く為に作業をしていたおかげで、畑地帯の端にいる。
 あそこでなら戦って見せても、村の畑への被害は少ないだろう。

 「なら丁度いいわね。シャイナ、あいしゃがシミズくんと会話できるマジックアイテムを持ってるでしょ。それを使ってこう指示を出して頂戴」

 「ふむふむ」

 なるほど、そんな風に立ち回ればよかったのね。
 早速私はマスターから教えてもらった対処法をあいしゃに伝え、シミズくんと詳しい打ち合わせをした。

 「それじゃあシャイナ、がんばってね。あいしゃとシミズくんにも、ヘマをしないようにがんばってねと伝えてね」

 「はい。マスター、ありがとうございました」

 こうして私はマスターの指示に従ってシミズくんもどき討伐作戦を始める事となった。


あとがきのような、言い訳のようなもの



 解決編まで行きませんでしたね。
 まぁ、シャイナが自分で考え付くわけではないのでどうしても文字数がかかってしまったのは仕方ないのですが、私の纏め方が下手だというのも原因の一つなんでしょうね。

 どこかに文章力、落ちてないかなぁw

 さて、ミミズ型ゴーレムについてですが、D&Dにゴーレム使いと言う職業はありません。
 でもユグドラシルはかなりの数の職業があるという話だし、ゴーレムがいるのは皆さんご存知の通りです。
 そしてワールドアイテムを使って強力なゴーレムを作る事が出来る以上、データークリスタルを使えば形状も変えられるのではないかと考えてミミズ型ゴーレムを登場させました。

 実際、いまのD&Dは知りませんが、昔の赤、青、緑、黒のD&Dのシナリオでは石の蛇のゴーレムが出てくるシナリオがあったから、D&Dを見本に魔法体系が作られているオーバーロードの世界なら作れてもおかしくはないですしね。


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